身寄りなし、一人暮らしのAさん の場合
電話機
RRRRRRRRRRRR
病院の担当者
Aさんの担当ケースワーカーの方ですか?実は、入院中のAさんが先ほど亡くなりました。親族の連絡先は分かりますか?
通常は、入院の時に身内が保証人になりますから、死亡時は保証人へ連絡すればいいわけですが、Aさんには交流のある身内がいません。病院へ尋ねると、入院の保証人はアパートの大家さんとのことです。
身寄りがない生活保護受給者が亡くなった時、ケースワーカーは何をして、そこにはどのような人の関わりがあるのでしょうか。
まずは、親族へ連絡します。
生活保護受給者については、保護開始時に、親・兄弟・子どもの戸籍を調査し、住所と氏名を把握しています。さらに、そのうち援助の可能性がある人については、文書で調査しています。その時の回答書に記入されている電話番号が役に立ちます。
今回亡くなったAさんには婚姻歴がなく、子供もいません。両親はすでに他界。あとは姉が頼りです。
姉へ電話します。
10年ワーカー
こちら市役所の生活保護課です。実はAさんがさきほど亡くなりました。そこで、火葬や葬儀、遺骨の引き取りをお願いできないかと思い、連絡差し上げました。
姉
Aとは過去にいろいろあって、縁を切っているんです。もう電話してこないでください。ガチャ
これは極端なケースだと思いますか?・・・実は、そうでもありません。「自称身寄りなし」の人の場合、親族はいるけれど訳あって絶縁状態、という人が珍しくありません。
仕方ないので、このあとの手続きはケースワーカーで行います。
まずは死亡届を提出しないと。
まず、市役所へAさんの死亡届を出す必要があります。死亡届を出さないと火葬ができないのです。
ところが、ケースワーカーは死亡届を出せません。法律上、死亡届出人になれるのは、親族、同居人、家主、地主、土地家屋の管理人などで、ケースワーカーは含まれていないのです。
今回は入院の保証人にもなってくれていた大家へ事情を説明し、死亡届出人になってくれるようお願いしたところ、引き受けていただけました。でも、大家も高齢で、市役所まで行くことはできないと言われてしまいました。。。
仕方ありません。ケースワーカーが動きます。
Aさんが死亡した病院へ行き、医者から死亡診断書を書いてもらいます。その書類を大家のところへ持参し、死亡届を記入してもらいます。死亡診断書と死亡届は1枚の紙になっているんですね。
ようやく、市役所へ死亡届(兼死亡診断書)を提出できます。火葬許可証も発行されます。
2016.11.21追記
本文では大家が死亡届出人になりましたが、もし死亡届出人が誰もいない場合、私の勤務する市では、福祉事務所長が死亡届出人となります。
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葬儀費用と火葬費用は誰が負担するか
次に火葬ですが、死亡から24時間以上経たないと火葬できないと法律で決まっています。かと言って、いつまでも遺体を病院に置いておくわけにもいかないので、葬儀社へ一旦遺体を引き取ってもらいます。
さて、この時点で、はっきりしておくべきことがあります。何でしょうか。
「火葬費用と葬儀費用は誰が負担するのか」ということです。
今回のように親族以外が葬儀を行う場合は、市内に住んでいる喪主に対して、収入や資産の状況に関係なく、火葬や最低限の葬儀費用の実費を生活保護から支給できます。これを葬祭扶助と言います。
本来葬儀をする義理などないのに、親切でしてくれたのだから、最低限の費用は生活保護から出しましょう、という趣旨ですね。
ちなみに、支給対象はあくまでも「喪主(=葬儀を行う人)」であって、「死亡したAさん」ではありません。
一方、親族が葬儀を行う場合も葬祭扶助の申請はできますが、支給できるのは申請者が生活保護の受給要件を満たしている場合だけです。
結局、親族の場合は、普通に生活保護を申請する時と同じ手続きになりますから、収入や資産に関する様々な書類の提出が必要です。このため、親族からの葬祭扶助の申請はめったにありません。
今回は、大家さんに喪主として名義を貸してくれるようお願いしましたが、断られました。そこで、地区の民生委員へ引き受けていただきました。
しかし、民生委員は名義を貸すだけで、実際に火葬や葬儀を行ってくれるわけではなく、結局ケースワーカーが動きます。
火葬して骨拾い。そして、骨壺の行方は
一晩、葬儀社へ遺体を安置し、翌日火葬します。ケースワーカーが火葬場へ行き、Aさんの火葬に立ち会い、骨拾いまでします。
遺骨は、市の施設で数年間保管します。この間に戸籍を徹底的に調べて、遠い親戚にも手紙を送り、遺骨の引き取りを要請します。
数年間遺骨・遺品の引き取りがない場合、遺骨は他の遺骨と合葬します。遺品は廃棄します。
ちなみに、アパートに残されたAさんの遺品の処分は、Aさんがアパートを借りた際の保証人が行います。保証人がいない場合は、大家さんが自己負担で行います。
10年ワーカー
身寄りのない生活保護受給者の死亡事例は今のところ少数だけど、近い将来には日常の風景になるかも。身寄りのない保護受給者が亡くなると、何から何までケースワーカーがやることになるんだよね。。。一度起きると3日間はこの仕事にかかりきりになるので、仕事が溜まって溜まって。。。