生活保護受給者が働きながら奨学金を返済すると、お金が減らないという不思議な話!?

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生活保護受給中のYさん
子どもAと二人で暮らしています。Aは世帯分離の上、大学に通っています。

Aが卒業し就職してからも一緒に住む予定なのですが、生活保護は切られるのでしようか?奨学金などの支払いがあるので、Aの一人暮らしは難しいと思うのですが。

10年ワーカー
大学を卒業したお子さんが実家から仕事に通う。世間ではよくあることです。でも、そこに生活保護が関係してくると、いろいろ気になりますね。

このような場合、Yさんとその子どもAさんの生活保護はどうなるのでしょうか。理解しやすいように、二段階に分けて説明しましょう。

世帯員全員について生活保護の要否を判定

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そもそも、Yさんと子どもAさんは生活保護の対象になるのでしょうか。
 
生活保護法では、原則として同じ屋根の下に住んでいる家族は、家族全員が生活保護の対象となるか、または全員が対象とならないか、そのどちらかです。
 
世帯分離とはその例外扱いで、同じ屋根の下に住む家族でありながら、一定の条件を満たした場合には、その人だけ生活保護を適用しないというものです。世帯分離について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
 
そんなAさん、大学進学ということで世帯分離の対象となりました。そして、今回、大学を卒業することで世帯分離が解除されます。
 
つまり、原則通りYさんとAさんの二人世帯として、生活保護の要否を判定するのです。YさんとAさんの年齢や障害の有無等により、この世帯の最低生活費が算定されます。
 
次に、世帯員全員の収入を合計します。この事例の場合、Yさんの給料や年金、それに子どもAさんの給料などが考えられます。
 
そして、Y・Aさん世帯の最低生活費と、Y・Aさんの合計収入を比較します。
 
最低生活費  世帯の合計収入額 →生活保護を受けられる
 
世帯の合計収入額  最低生活費  →生活保護を受けられない
 
簡単に説明すると、上のようになります。(正確には、最低生活費には障害者加算などの増額要素があります。就労収入からは必要経費と基礎控除を差し引きます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。)
 
この段階で生活保護の対象とならない場合は、YさんとAさんの二人とも生活保護は受けられないということになります。
 
でも、それは決して悲観することではありません。生活保護が受けられないということは、YさんとAさん二人の収入があれば、最低限度を上回る収入があるということであり、生活保護受給者よりもいい暮らしができるということですから。 

奨学金を返済しても、手もとのお金は減らない!

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YさんとAさんの世帯が生活保護の対象となった場合、Aさんの給料から奨学金の返済金を控除することができます。具体的に説明しましょう。
 
通常、給料をもらうと、給料から交通費や税金などの必要経費、さらに基礎控除額を差し引いた残額について収入認定(=保護費を減額)します。
 
ところが、奨学金については、事前に福祉事務所の承認を受けていれば、奨学金の返済に充てる額は経費として給料から差し引くことができるのです。つまり、交通費と同じように、奨学金の返済にあてる額については保護費が減らされないのです。これはかなりお得な制度です。
 
厚生労働省社会・援護局長通知第8-4-(3)
 
貸付資金のうち当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額の償還については、償還が現実に行なわれることを確認したうえ、次に掲げるものについて、当該貸付資金によって得られた収入(修学資金又は奨学資金については、当該貸付を受けた者の収入、(略))から控除して認定すること。
 
ア 国若しくは、地方公共団体により行なわれるもの又は国若しくは地方公共団体の委託事業として行なわれるものであって、償還の免除又は猶予が得られなかったもの。ただし、医療費又は介護費貸付資金については、保護の実施機関の承認のあったものに限ること。
 
イ ア以外の法人又は私人(絶対的扶養義務者を除く。)により貸し付けられたもののうち、貸付けを受けるについて保護の実施機関の事前の承認のあったものであって、償還の免除又は猶予が得られなかったもの。ただし、事前の承認を受けなかったことについてやむを得ない事情があり、かつ、当該貸付資金が現にその者の自立助長に役立っていると認められ、事後において承認することが適当なものについても、同様とする。
 
ウ~キ (省略)
 
具体例で説明しましょう。
 
生活保護を受給しながら同じ条件で働いているCさんとDさん。Cさんは給料から奨学金を返済します。一方のDさんには奨学金の返済はありません。
 
そんな二人、就労収入と生活保護費を合わせた額で比較すると、手元に残る額は同じなのです。Cさんは給料から奨学金を返済したのに、手元に残る額は返済がないDさんと同じという、実にお得な制度なのです。
 
これは生活保護を受けているのであれば、ぜひとも使ってほしい制度です。このように交通費や社会保険料以外で就労収入から控除できる費目、他に6つあります。
  • 出稼ぎ等に要する生活費や住宅費の実費
  • 就労又は職業訓練中の子どもの託児費用
  • 住宅金融公庫の貸付金の償還金(ただし、住宅の一部を活用して収入を得ている場合に限る)
  • 地方税等の税金
  • 健康保険の任意保険料
  • 国民年金の受給権を得るために必要な任意加入保険料

まとめ

  1. Yさんと大学を卒業したAさんの二人世帯について、生活保護の要否を判定する。
  2. 二人世帯について生活保護が適用になる場合、奨学金の貸し付けを受けているAさんの給料から、返済金を経費として控除できる。その結果、返済金については生活保護費で補われるので、生活費への影響はない。

10年ワーカー
生活保護受給者の給料から奨学金の返済金を経費として控除する制度、実にお得な制度なのですが、実際に活用した事例を見たことがありません。

大学を卒業するという事例自体も少ないのですが、ほとんどの方が大学を卒業すると実家を出てしまい、生活保護の対象ではなくなってしまうのです。
 
でも、大学を出て就職するタイミングで生活保護から完全に脱却というのは、心情的には理解できます。使えそうで使えない、そんな制度なのかもしれません。