生活保護受給中のAさん
やっと仕事が決まりました!
10年ワーカー
おめでとうございます!では保護はおしまいです。さようなら、お元気で。
・・とはなりませんので、安心してください。
生活保護受給者が仕事を始める時の生活保護の取扱いは3種類。①保護費が減額になる場合、②保護停止になる場合、③保護廃止になる場合です。
では、それぞれどういう場合に適用されるのでしょうか?
生活保護の必要性の判断基準とは
生活保護の必要性を判断する時は、その世帯の最低生活費と収入額を比較します。
最低生活費とは、住んでいる市町村、家族の人数、家族それぞれの年齢、障害の有無、家賃等によって、その家族が最低限の生活を送るのに必要な理論上の費用です。
収入額とは、その世帯員全員の収入総額から必要経費を差し引いた額です。
収入額が最低生活費より少なければ、生活保護を受けられます。収入が最低生活費より多ければ生活保護は受けられません。
最低生活費 > 収入額 →生活保護を受けられる
収入額 > 最低生活費 →生活保護を受けられない
収入がどれだけあれば、保護が停止や廃止になる?
生活保護受給者が働き始めると、給料の額に応じて保護費が減ったり、保護が停止になったり、廃止になったりするのですね?
10年ワーカー
そういうことです。
でも、給料を10万円もらったのに、それで保護費を10万円減らされたら、頑張って働こうという気持ちになれないと思いますけど。。だって、人間だもの。
10年ワーカー
だって、人間ですからね(笑)もし私が保護受給者の立場なら、やはり同じように考えますよ。そこで、生活保護には基礎控除という仕組みがあるんですよ。
基礎控除とは、働いて得た収入については、一定額を収入として認定しない(=保護費を減らさない)というものです。
給料が10万円で基礎控除が2万円とすると、保護費は8万円減るので、差し引き2万円が手元に残る。そんなイメージです。
生活保護の停止や廃止を検討する際も、基礎控除を加味して判断します。では、事例で説明しましょう。
<東京都区部在住、30歳一人暮らしの場合>
この世帯の場合、最低生活費は月額134,010円です。(住宅費を含む、医療費は除く)
【例1】給料総額150,000円の場合
給料総額150,000円(うち、社会保険料10,000円、通勤実費5,000円)の場合について検討しましょう。
給料総額150,000円から社会保険料10,000円と通勤実費5,000円を差し引き、さらに基礎控除として28,400円を差し引いた額106,600円を収入額として認定します。
最低生活費134,010円から収入額106,600円を差し引いた27,410円が生活保護費として支給されます。
つまり、給料150,000円とは別に、生活保護費27,410円が支給されるのです。
[計算式]
最低生活費134,010円ー(給与総額150,000円ー社会保険料15,000円ー通勤実費5,000円ー基礎控除28,400円)=生活保護費27,410円
【例2】給料総額190,000円の場合
給料総額190,000円(うち、社会保険料12,000円、通勤実費5,000円)の場合について検討しましょう。
給料総額190,000円から社会保険料12,000円と通勤実費5,000円を差し引き、さらに基礎控除として32,400円を差し引いた額140,600円を収入額として認定します。
最低生活費134,010円よりも収入額140,600円の方が多くなっています。つまり生活保護を受けられなくなったのです。
ここで初めて、生活保護を停止するのか、廃止するのかという判断が必要になるのです。
[計算式]
給与総額150,000円ー社会保険料15,000円ー通勤実費5,000円ー基礎控除28,400円=収入認定額140,600円 > 最低生活費134,010円
このように、給料から必要経費と基礎控除額を差し引いた後の額を最低生活費と比較するので、給料が最低生活費を少し超えた程度では保護が停止や廃止になることはありません。
停止や廃止になるということは、それなりに暮らせるだけの給料をもらっているということなのです。
停止と廃止の違いとは
では、停止と廃止の違いは何でしょうか。
まず、停止と廃止のどちらも、生活保護費が一切支給されない点は同じです。違いは、期限の有無です。つまり、停止とは、期限付きの保護廃止なのです。
停止には大きなメリットがあります。もし収入が減るなどして再び保護が必要になった場合、停止ならすぐに保護を再開することができます。
廃止になると、改めて保護の申請からやり直しとなるため、再び保護を開始するまでに最大1ヶ月間かかるのです。生活保護が決定すれば保護費は保護申請日まで遡って支給されますが、支給までに1か月かかってしまうのは、廃止の大きなデメリットです。
判断基準は、6ヶ月以内に保護を再開する可能性の程度です。再開可能性が高ければ停止、再開可能性が低ければ廃止、となります。
例えば、正社員として採用になり、生活保護が必要ない額の給料をもらえることになったとしましょう。正社員が6ヶ月以内に失業する可能性は低いですから、保護廃止となるでしょう。
一方、アルバイトや派遣社員など雇用期間が不透明な場合、6ヶ月以内に失業したり、給料が激減する可能性もあるので、一旦保護を停止して、6ヶ月経った時点で保護廃止となる場合が多いです。
停止や廃止の時期について
では、停止や廃止のタイミングはどうなるのでしょうか。
これは最初の給料日によって決まります。通常、保護基準を上回る給料をもらう前月まで生活保護が適用されます。
しかし、これでは保護が廃止になってから給料日までの間の生活費が足りないことがあります。そこで、最初の給料をもらう月までは生活保護費を受け取り、給料が出てから、その月の保護費を返還する方法があります。
実は、廃止の場合は裏ワザがあります。給料日の直前で生活保護を辞退するのです。
辞退とは、役所が保護の必要性を判断するのではなく、保護受給者が自分の意思で生活保護を辞めることです。こうすれば、給料分の保護費が減額される前に保護を辞めることになるので、その分だけ得をすることになります。このあたりは福祉事務所ごとの運用次第というところがありますので、必ず事前にケースワーカーに確認しましょう。
なお、辞退すると保護は廃止になります。辞退により保護を停止することはできません。
たとえ辞退により保護を廃止した場合でも、再び生活に困窮すれば生活保護を申請することができます。辞退したことで不利な取り扱いを受けることはありませんので、ご心配なく。
具体例
8月 1日 8月分生活保護費を1か月分受給(収入額の引き去りがない満額)
8月20日 辞退により保護廃止
8月25日 最初の給料を受給
8月1日の時点では25日に給料を受け取ることを役所に報告していませんので、8月分生活保護費からは、8月25日の給料分の引き去りはありません。
8月20日に役所へ保護の辞退届を提出します。
8月25日にもらった給料は、保護廃止後に受け取った収入ですから、収入認定の対象にはなりません。
なお、8月21日から31日までの分の生活保護費は日割りで返還を求められるのが通常ですが、場合によっては返還を免除される場合もあります(生活保護法第80条)。免除対象となるかどうかは福祉事務所の判断です。
まとめ
- 就職し給料を受け取ると、保護費は減額される。必ず停止や廃止になるわけではない。
- 仕事でそれなりの収入を得られるようになった場合、半年以上暮らしていけそうなら保護廃止。半年以内に再び保護が必要になるようなら保護停止。
- 給料をもらい始めることで保護が廃止になる場合、保護を辞退することで、最後に受け取る保護費が有利になることがある。
10年ワーカー
担当する保護受給者が就職や転職により生活保護を脱却していくのは、ケースワーカーのやりがいの一つです。
停止も活用しながら、ウマく飛び立ってほしいですね。
停止も活用しながら、ウマく飛び立ってほしいですね。