生活保護受給者が受け取った退職金の取扱いとは

生活保護受給中のTさん
仕事をしながら生活保護を受けています。実は、今の仕事を辞め、職業訓練を受けて転職し、生活保護から脱却したいのです。
今の会社を辞めると退職金が300万円程度出るのですが、これは役所への返還対象となるのでしょうか。職業訓練の費用や借金返済にも使いたいのですが大丈夫ですか?
10年ワーカー
退職金の場合、退職日が属する月以降の保護費が返還対象です。保護費を返還した残額を持って保護廃止という流れが一般的ですね。詳しく説明しましょう。
 

生活保護上の退職金の取扱い

生活保護上、退職金は通常の勤労収入とは区別し、臨時収入と考えます。8千円を超えた額が収入認定対象となります。
東京都生活保護運用事例集
(問7-17)退職金の取扱い
被保護者が会社を退職して退職金を得た場合、収入認定上の取扱いはどうなるか。
 
答(抜粋)
退職金は、過去の就労に伴って得られる収入ではあるが、勤労控除を適用する対象とは見なされない。それゆえ、退職金については、「その他の臨時収入」に該当するものとして取り扱うものである。したがって、必要経費等を控除した上で、8,000円を超える額を収入として認定することとなる。
Tさんの場合、退職金300万円のうち、8千円を差し引いた299万2千円について、返還額を算定します。このケースの場合、退職日の属する月から退職金を受け取った月までに受け取った生活保護費(医療扶助を含む)を福祉事務所へ返還します。そして、その残額を持った状態で生活保護廃止という流れになります。
 
具体例で説明しましょう。
2月5日、2月分保護費8万円受給(※1)
2月15日、退職
3月5日、3月分保護費8万円受給
3月15日、退職金300万円を受給
 
受け取った退職金300万円のうち8千円を差し引いた299万2千円から、2月分と3月分の保護費16万を返還します。残額が283万2千円ありますから、半年以上生活することが可能です。そこで、3月16日付で保護廃止(※2)となります。
 
※1:医療扶助は省略しています。
※2:保護廃止日の判断は福祉事務所により異なる可能性があります。
 
保護廃止後であれば、手持ちのお金の使い道は本人の自由です。したがって、職業訓練に充てても、借金返済に充てても構いません。場合によっては、保護廃止後に手持ち金全額を借金返済に充てて、再び保護申請というのもあり得ますね。それも生活保護上何ら問題ありません。
 
コラム
ちょっと難しいけれど大事な「資力の発生時期」の話

生活保護費の返還額を算定する際には、「資力の発生時期」がポイントになります。資力の発生時期とは、「そのお金を受け取る権利が発生した日」と言う意味です。そして、 資力の発生時期以降に受け取った保護費が返還対象となるのです。

上の退職金の事例の場合で説明しましょう。退職金は、退職することで受け取る権利が発生するお金です。つまり、退職金の資力の発生時期は退職日。そこで、退職日の属する月以降の保護費が返還対象となるのです。

 

もし退職金が30万円だったら?

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Tさんのように、生活保護受給者で退職金を300万円もらえるという人はかなり少数です。そもそも退職金を受け取れるような仕事に就いている人自体、ほとんどいません。
 
では、仮に退職金が30万円だったらどうなるでしょうか?
 
これも具体例で説明しましょう。
2月5日、2月分保護費8万円受給
2月15日、退職
3月5日、3月分保護費8万円受給
3月15日、退職金30万円を受給
 
受け取った退職金30万円のうち8千円を差し引いた29万2千円から、2月分と3月分の保護費16万を返還します。手持ち金は13万2千円です。1ヶ月の生活保護費は8万円ですから、1ヶ月と少ししか暮らせません。そこで、生活保護を1ヶ月間停止し、その後保護を再開します。
 
手持ち金で6ヶ月以上生活できるようであれば保護廃止、6か月未満であれば保護停止となります。停止と廃止の違いについて、くわしくはこちらの記事をご覧ください。
 

生活保護受給者の職業訓練費用は?

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退職金が30万円の場合は、生活保護を一時停止するだけで、その後も生活保護が継続します。生活保護受給中にハローワークの職業訓練を受ける場合、テキスト代など通常自己負担となる部分が生業扶助として生活扶助費とは別に支給できることがあります。
 

まとめ

  • 生活保護受給者が退職金を受け取った場合、退職日の属する月から退職金を受け取った月までに受け取った生活保護費(医療扶助を含む)が返還対象となる。
  • 返還後、手持ち金の残額次第で生活保護が継続する場合、停止や廃止になる場合がある。
  • 生活保護廃止後の手持ち金の使い道には制限がない。
 
10年ワーカー
Tさんのように、転職してステップアップを目指そうという生活保護受給者は実際にはほとんどいませんが、ケースワーカーとしては嬉しい話ですね。Tさん、頑張ってください!