生活保護を申請すると親・兄弟・子供にばれる?扶養調査と扶養義務の関係

生活保護申請を検討中のAさん
生活保護を申請すると親・兄弟・子供に知られてしまうって本当ですか?親・兄弟・子供に知られずに、生活保護を受ける方法はありませんか?
10年ワーカー
生活保護の申請があった場合、親、兄弟、子どもに対して扶養調査を行うのが原則です。でも、その全員に対して調査するわけではありません。
調査の範囲はどこまでで、調査はどのようにおこなうのか。また、調査を避ける方法はあるのか。説明しましょう。 

扶養調査の対象は?

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生活保護の申請があった場合、その世帯員それぞれの親・兄弟・子供に対して、扶養調査を行います。
 
なぜ調査対象は親・兄弟・子供なのでしょうか。
 
生活保護法では、扶養義務者による扶養は生活保護に優先すると定められています。
 
生活保護法第4条第2項
民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
 
この「民法に定める扶養義務者」のうち、親・兄弟・子供を絶対的扶養義務者と定め、扶養調査の対象にしています。
 
ただし、扶養の可能性がない人に対しては、調査を行ないません。例えば、年金だけで生活している、10年以上音信不通生活保護受給中の場合などは援助の可能性がないと判断し調査自体を行わないことが多いです。
 
一方、扶養の可能性がある人に対しては、調査を行います。申請者が親族の住所を知らない場合は、役所で戸籍を調べてから扶養調査を行います。
 
つまり、特別な事情がない限り、親、兄弟、子供に対しては扶養調査を行うため、〇〇市で生活保護を申請している、ということは相手に知られてしまうことになります。 ただし、町以下の詳しい住所は、保護申請者の了承がない限り伝えません。

扶養届書とは

扶養調査は文書で行います。「扶養届書」という書類を提出してもらいます。書式は役所ごとに若干異なりますが、このような形式です。
 
 
調査内容は主に3点です。
 
1.精神的な支援について
訪問や電話など、金銭以外での関わりができるかを尋ねます。
 
2.金銭的な援助について
仕送りができるかを尋ねます。
 
3.私の世帯について
調査対象者の収入や資産、負債などの状況を尋ねます。
 
このうち、「3.私の世帯について」には、源泉徴収票の写しなどを付けるように書いてありますが、実際に付いていることは少ないです。付けてないからといって、わざわざ連絡することは通常ありません。
 
※扶養調査書の記入方法については、こちらの記事で詳しく説明していますので、合わせてご覧ください。パターン別の具体的な記入例については、こちらの記事で詳しく説明しています。

調査した結果どうなる?

調査した結果、仕送りができると回答があった場合は、仕送りしてもらいます。
 
仕送りは、保護を受けている本人に対して直接おこなってもらいます。役所は、仕送り額の分だけ生活保護費を減額します。
 
つまり、仕送りを受けるとその分だけ生活保護費が減らされるのですから、保護受給者にとっては何のメリットもない制度なんです。でも、扶養義務者の扶養は生活保護に優先すると定めらているので、仕方ありません。
 
ちなみに、扶養調査を行うことで仕送りが始まったという事例はほとんどありません。というか、皆無ですね。戸籍調査から文書発送に至るまで結構な手間がかかる割に効果はほとんどなく、まさに「労多くして功少なし」です。
 
では、高収入だけど金銭的援助はできない、と回答があった場合どうなるのでしょうか。
 
保護申請者と高収入の親族の関係が、①夫婦の関係である場合、または②中学生以下の子供とその親の関係である場合には、家庭裁判所に対する調停又は審判の申し立てを考慮することとなっています。
 
つまり、①生活保護を申請した妻と、婚姻中だが別居している高収入の夫、②生活保護を申請した母子世帯の子供と、その子供の高収入の父親、という場合ですね。逆に、こういう特別な場合でない限り、提出された扶養届について、さらに調査することは実務上ありません。

親・兄弟・子供に知られずに、生活保護を受ける方法とは?

冒頭の質問への回答です。
 
つまり、役所から扶養照会の文書を送らせないためにはどうすればいいか、ということですが、残念ながら完全な方法はありません。
 
ただ、それなりの方法はあります。そもそもこういう方法を知りたいということは、その人との間に、何らかのマイナスの出来事があり、関係が悪化しているということだと思います。そのことを正直に役所へ言うことです。
 
私の経験では、金を借りたまま放置している、かつて大ゲンカしてから一言も口も利いていない、などがあります。このような理由を本人が強く訴え、「調査されるぐらいなら、生活保護は要らない。飢え死にした方がましだ。」などと口走る場合、私の勤務先ですと、調査はとりあえず保留しますね。
 
私がこれまでに申請者の意思に反して扶養調査を行ったのは一度だけです。これは、申請者が20歳代で、親が大学病院の教授であることが大学病院のウェブサイトで確認できたケースでした。結局、親が面倒を見るということで、生活保護には至りませんでした。
 
仕送りについては、こちらの記事でも説明していますので、興味のある方はご覧ください。
 
10年ワーカー
親・兄弟・子供に知られるのがいやだから生活保護を申請できない、という話を聞くことがあります。扶養照会を送られると困る場合は、ケースワーカーへ事情をしっかりと説明しましょう。保護申請者の反対を押し切って扶養照会を行うことは、ほとんどありません。