生活保護受給者が土地を相続すると保護は廃止?生活保護での不動産の取扱いとは。

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司法書士のY先生から質問をいただきました。
 
司法書士のY先生

生活保護受給者が土地を相続して大丈夫ですか?生活保護が切られたりしませんか?

もし土地が売れたら、生活保護はどうなりますか?売却益は、借金の返済に回しても大丈夫ですか?

 
生活保護受給者が土地を相続。都市部であれば、相続した土地を売って生活保護脱却、となるのかもしれません。
 
しかし、地方の場合、土地の場所次第では、何も生み出さずに管理責任と固定資産税だけが発生する「負の遺産」となる可能性があるのです。
 
質問を整理します。
 
生活保護受給者Aさんの父親が死亡し、Aさんは父親の土地を相続。
 
しかし、この土地は不便な場所で、すぐに買い手はつかない。
 
そこで、
①Aさんが土地を相続した場合、生活保護を受け続けることができるのか。
 
②もし土地が売れた場合、売却益の取り扱いはどうなるのか。
 
③Aさんには借金があるのだが、売却益を借金返済に充てることはできるのか。
 
 では、順に見ていきましょう。
 

①生活保護受給者が土地を相続した場合、生活保護を受け続けることはできる?

まず、①の質問です。Aさんは生活保護を受け続けることができるのでしょうか。
 
結論から言いますと、土地を相続しても、生活保護を受け続けることができます。
 
所有する資産を活用することは、生活保護を受けるための条件の一つです。
 
ただし、土地の場合は株式や国債などと違い、即座に換金できるわけではありません。そこで、土地を売却して売却益が手に入るまでは、これまでどおりに生活保護費を受け取ることができます。
 

生活保護受給者が所有する土地の固定資産税は免除可能

土地を所有すると、固定資産税が発生します。しかし、生活保護受給者の単独所有の場合は、市税条例により、固定資産税の免除を受けることができます。免除を受けるには、市役所の固定資産税担当課で免除申請の手続きが必要です。
 

②土地が売れた場合、売却益の取り扱いは?

次に②の質問です。土地が売れた場合、売却益の取り扱いはどうなるのでしょうか。
 
父親の死亡から2年後に、Aさんが相続した土地が売れたとします。この場合、父親が死亡した時から土地の売却益を手にするまでにAさんが受け取った保護費が返還対象となります。返還対象となる保護費を、土地の売却益から役所へ返してもらいます。
 
返還対象の保護費の起算点は「父親が死亡した時」です。「Aが正式に相続した時」ではありませんので、注意が必要です。Aさんがその土地を取得する原因が発生した時(=Aの父親が死亡した時)が返還する保護費の起算点となります。
 
具体例で説明します。売却益の金額次第で取り扱いが異なります。
 
某地方都市に住むAさん(68歳)は借家住まいで一人暮らし。
 
生活保護費は、生活費が月74,000円、住宅費が月37,000円、合計111,000円。(簡略化するため、医療費・介護費は説明から除外。)
 
2014年10月1日 Aの父親が死亡
2016年3月1日 Aの相続手続きが完了
2016年8月1日 土地の売買契約成立
2016年10月1日 土地の売却益がAさんの口座へ入金される。→金額次第で次の【ケース1】から【ケース3】に分類。
 
※2014年10月1日から2016年10月1日までの24ヶ月間で支給された保護費は270万円とします。
 
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【ケース1】土地の売却益が200万円の場合

売却益(200万円)よりも支給された保護費(270万円)の方が多いので、売却益は全額役所へ返還します。そして、引き続き生活保護を受給します。
 

【ケース2】土地の売却益が300万円の場合

支給された保護費(270万円)を役所へ返還します。30万円が手元に残ります。Aさんの保護費は月額約11万円ですから、少なくとも2か月間は手持ちの金で暮らせるはずです。
 
したがって、2か月間、生活保護を停止します。その後、手持ち金をほぼ使い切ったことを確認して、生活保護を再開します。
 
※「生活保護の停止と廃止」については、こちらの記事をご覧ください。
 

【ケース3】土地の売却益が400万円の場合

支給された保護費(270万円)を役所へ返還します。130万円が手元に残ります。Aさんの保護支給額は月額約11万円ですから、6ヶ月以上、手持ち金で暮らせるはずです。したがって、保護を廃止します。その後、手持ち金が減少し再び生活に困窮したら、改めて生活保護を申請してもらいます。
 
※「生活保護の停止と廃止」については、こちらの記事をご覧ください。
 
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③売却益を借金の返済に充てることができる?

次に③の質問です。売却益を借金の返済に充てることができるのでしょうか。
上記の【ケース1・2・3】について、それぞれ説明します。
 
【ケース1】の場合、売却益全額が役所への返還対象ですので、借金の返済に充てることはできません。
 
【ケース2】の場合、保護費を役所へ返還した後の手持ち金30万円を借金返済に充てることは可能です。
 
本来この手持ち金は、保護停止中2か月間の生活費ですので、それを借金の返済に充てることは、役所の立場からすると好ましくありません。
 
結果的には、2ヶ月持たずに手持ち金がなくなり、すぐに保護再開となるかもしれません。ケースワーカーからはお叱りを受けるかもしれませんが、それぐらいは我慢しましょう。
 
【ケース3】の場合、保護費を役所へ返還した後の手持ち金130万円を借金返済に充てることは可能です。
 
保護は廃止になっているため、手持ち金130万円を何に使うかはAさんの自由です。場合によっては、保護廃止後130万円を借金返済に充てて、すぐに生活保護を申請するということもあり得ます。
 

まとめ

  1. 土地を相続しても、生活保護を受け続けることができる。
  2. 生活保護受給者だけで土地を所有する場合、固定資産税の免除を受けることができる
  3. 土地が売れた場合、被相続人が死亡した日以降に支給された保護費を返還しなければならない。
  4. 売却益の金額次第で、保護が継続する場合、停止になる場合、廃止になる場合がある。
  5. 保護費を返還した後、生活保護が停止や廃止になった場合は、手持ちの金を借金の返済に充てることは可能。
   
10年ワーカー

保護受給者本人が住んでいない土地と建物は、全て売却指導をしているんだけど、実際に不動産屋へ相談するなど、売却のための手続きをしている事例はほとんどないのが実情。
 
この辺の指導まで徹底するとなると、今のケースワーカーの人員ではとても足りません。。。